わたしが 死んで、も

「毎日　笑っててな。」


ほんとの気持ちは送ったはずなのに
返事なんかかえってきやしないし
さよならのときさえ教えてもらえなかったし
呼んでももらえやしなかった。



あたしは大事なときには　いらない人間なんだ
大事な人には　どうやったってなれないんだな。



「ごめんね、ごめん」
あたしが泣いたのはぶつかった手が痛かったからじゃない
お酒のせいだけでもない。


「うん、うん」
優しいあの子は　酔っ払って泣いてたあたしを
ぎゅう、って抱きしめてくれたけど。

さよならにさよならが重なった最後の日、の次の日。
たくさんのこれからの人の中にいて
笑っていても　やっぱり胸にあいたものは埋まらなかった。


風が強いけど日差しも暖かいその日
あたしはハイボールと梅酒と缶チューハイにすっかりやられて
ふらふら、ふわふわと　歩き回った。


そして、ふらついたあたしの顔に思いっきりぶつかった彼の手。
どう考えたってあたしが悪いんだけど
彼はものすごく謝ってくれた。


「ごめんね、ごめん。ごめんな、痛かったな」
それはそれは優しい声で。
何度も、何度も。


手がぶつかったから　涙が零れた。
一度出てきたそれは　引っ込むことをしらない。


ね。
さよならの日　教えてくれた？
最後　会いたいって　思ってくれた？
別に思い出しも　しなかったんじゃないかな？
これからだってきっとそうなんじゃない？
これから、なんて　ねぇ、あるの？
作ろうと思ってるのは　作りたいのは　あたしだけ？


止まらなくなった。


泣きやめないでいたから　隠れたけど
彼はやってきてくれた。
優しいな。優しい子。


「ごめんな、ほんと、ごめん、ごめんね。」
あたしより幾分と大きな彼は　困ったような顔で
小さな子どもをあやすように　ぽんぽん、と
後ろあたまを撫でて　肩で顔を隠すように抱いてくれたけど
それでもあたしは　一生懸命につかまったままで
「うん、うん」と言うのが精一杯だった。


当たったトコが痛いんじゃないんだよ。
あなたのせいじゃないんだよ。
そう言いたかったけど　言えずにいた。


甘えてしまいたかった
うめてしまいたかった

いくら撫でてくれても　ぎゅってしてくれても
埋まらなかった　甘えられなかったよ。


「だいじょうぶ、ごめんね」

酔っ払いの戯言　戯れ言。
そんなふうにとどいたのかもしれないけど
びしょびしょになりながら　笑ったら
彼はやっぱり困った顔で　二度ほど頭をぽんぽんとして
またどこかへ行った。


泣いたらいけない、と思えば思うほど泣ける。


ほしいもの？


仕方がない。
ほしがられないのは　仕方がないんだってば。


誰かと仲間に　この先　なれるのかな。


分からないんだ　怖いんだ。
大丈夫。大丈夫？


この先なんて　これからなんて　あるのかな
作れるかな


今は痛みも一緒に
誰かに抱きしめてもらっていて


大丈夫だよ。


楽しい時間を共有したい。これからは。


笑っていてください　どうか
あなたにとってのあたしは　きっとそうじゃなくても
あたしにとってのあなたは　笑っててほしい存在なんです


どうか。



「ごめんね」


酔っ払ったまま笑ったあたしに
やっと彼も笑ってくれた。


さあ　うちに帰ろう。